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福岡家庭裁判所 昭和57年(少ハ)1号 決定

少年 M・R(昭三七・二・八生)

主文

本人を昭和五八年一月五日まで中等少年院に戻して収容する。

理由

(九州地方更生保護委員会の本件戻し収容申請理由の要旨)

本人は、昭和五六年八月一八日福岡家庭裁判所において中等少年院送致(一般短期処遇)の決定を受けて佐世保少年院に収容され、同年一一月一三日に少年院法一一条一項但書による収容継続決定がなされ、収容満了期間は昭和五七年八月一七日となつていたところ、同年一月五日佐世保少年院を仮退院し、福岡保護観察所の保護観察下にあつた者であるが、仮退院中遵守すべき事項として定められた犯罪者予防更生法三四条二項二号の「善行を保持すること。」の事項及び同法三一条三項に基づき定められた特別遵守事項のうち「どんなことがあつても、シンナーなど決して吸引しないこと。」「何でも両親や担当保護司と相談してその助言指導に従うこと。」の各事項を遵守せず、同年一月一〇日ころから同年二月二一日ころまで毎日のようにシンナーを吸引し、その間、本人の両親は保護観察官の指導により、同年一月一六日から同年二月一八日までの間シンナー吸引の治療を受けさせるための病院に入院させたが効果がなかつた。そして、同月一九日シンナー吸引のことで両親と口論して家出をし、同月二二日シンナーを購入に行くため自転車を窃取したものであり、これらの生活態度によればこのまま保護観察を継続して本人を更生させることは困難である。よつて本人を少年院に戻して収容し矯正教育を施す必要がある、と言うにある。

(当裁判所の判断)

審判の結果、本件保護事件記録、少年調査記録によると上記申請理由の事実はこれを認めることができる。更にこれらの資料によると、本人は、当裁判所において、昭和五四年一一月二七日から道路交通法違反、恐喝、暴行で不処分、審判不開始の各決定を受けてきたが、昭和五六年七月七日シンナー吸引を主とした虞犯で福岡保護観察所の保護観察に付され、同年八月一八日窃盗(万引)とシンナー吸引を内容とした虞犯により中等少年院送致(一般短期処遇)になつたものである。そして前記の申請理由の事実を併せ考えると、本人のシンナー吸引依存癖はかなり進行し、更に本人に対しては病院の治療効果も通常の方法では期待できない(殊に本人は病院に対する恐怖感が非常に強い)ので、在宅保護をもつてはシンナー吸引を早急に止めさせることは困難である。しかも佐世保少年院の教育で自己中心的な感情の抑制や社会規範、常識を身につける等の精神状況が向上していることは認められるが、未だ周囲の状況下ではさ細なことで挫折し易い面も残つているので、少年院に戻して教育し、シンナー吸引やそれに伴い起し易い窃盗、傷害等の罪を起こすことを防止する必要があると思われる。

そこで、少年院の指定についてみると、本人はすでに二〇歳を超えた成人である。二〇歳を超えた者を中等少年院に送致できるか否かを検討するに、少年院法の各規定(特に二条三項、四項)によれば、二三歳の枠内で中等、特別のいずれの少年院を指定するかは、年令のほかにもその要件に違いがあり、各少年院の収容者、教育内容を踏まえ、更に少年院送致が送致者に対し最も適合する少年院で社会生活に適応される教育効果を最大限にあげることを目的としていることを考えると二〇歳を超えた者も同法の法意に反しない限り中等少年院に送致できるものと思われる。本件においては、本人は同法二条三項のおおむね二〇歳に該当し、上記の如くシンナーの吸引がなければ、日常生活の非行性は軽微であつて同条四項の犯罪的傾向が進んでいるとは言えず、しかも鑑別結果通知書、当裁判所調査官、福岡少年鑑別所、佐世保少年院の各意見に徴すると、本人の弱い性格から特別少年院よりも中等少年院での教育の方が受け入れ易く、その効果もあがること、少年院でもこれを拒否していないことが認められ、これらを考慮すると、本件は本人を中等少年院に戻して収容することが相当である。

次に期間についてみると、上記の本件事案、本人の性格、本人にシンナー吸引を止めさせなければならないことの自覚が一応できていること、更に本人の年令を綜合して、中等少年院での収容教育に必要な限度である九か月の期間で足りると考え、本件の期間は本決定の日から、昭和五八年一月五日までとする。

よつて犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤敦夫)

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